個人でモノを売るために――生主の場合
個人でモノを売るために――生主の場合
はじめに
もう1年以上前の話になるのだが、かつてゲーム実況者による旅行DVDの販売が問題視されていたことがあった。 要するに、ゲーム実況動画という他人のふんどしで得た知名度を、 それとは関係ない旅日記DVDで換金するのはいかがなものか、といった話で、 嫉妬やらなにやらが渦巻いた感じで、当時だいぶ炎上していたと思う。
まあ僕には、彼らが誰なのかとか、さっぱりわからなかったのだけれど、 スタンスとしては「別にいいじゃん買わねーけど派」であった。 いや、むしろ「叩いてるお前らもやれよ派」と言っても良いくらいに考えていた。
特にこの場合、変な業者を絡めていないところが評価できた。 どうやらゲーム実況は人気らしいから、目をつけられていてもおかしくはなかったはずだ。
しかしその一方、生主(=生放送をするユーザー)は、彼らに比べたら中途半端な存在である。 なぜなら、人気が中途半端というか、人気の数値と売上の相関性が低く、 数字だけで判断せざるを得ない部外者から見ると、グッズ類の売上が予想がしづらいのである。 であればなおのこと、自力でCDやらグッズやらを制作するべきであって、 変に業者を挟まないことが立ち回りとして重要となる。
改めて、巨大な同人の世界
日本にはコミックマーケット(以下コミケと略記)という世界最大の同人誌即売会がある。 1975年から続くイベントであるが、年々サイズが拡大し、 金額的には1回開催で50億円が動いている。
また、コミケ以外の同人誌即売会も、ほぼ毎週どこかで開催されており、 イベント後には専門書店に卸され、 全国展開されていたり する。 それらを合わせると、ざっくり300億円の市場である。
ところで、同人誌即売会とは言ったものの、流通しているのは本ばかりではなく、 音楽CDやDVD、その他グッズ類も含まれている 。
また、作品の内容的には、商業漫画に対する二次創作物が中心であることは間違いないのだが、 それ以外の オリジナルの作品も許容されている 。
つまり、コミケをはじめとした同人市場は「非商業の流通市場」を担う場として、中心的役割を果たしているわけだ。
モノの作りの手段は、とっくにコモディティ化している
この、「非商業の流通市場」の歴史は長く、コミケも約30年の歴史がある。 そして、作り手(=サークル)の数も相当であり、それは1回の開催で3万を超える。
つまり、すでに作り手として「非商業の流通市場」にアプローチするための情報は世の中にあふれており、 ほとんど検索すれば集められる ものばかりだ。
以下に、その概略を掴むための項目を並べておく。 毎度のことだが網羅する気はない。 興味のある人は適当に検索して深堀りしていくのがよいだろう(ない人は飛ばしてOK)。
制作ソフト類
● Adobe Illustrator(月額2200円でよい。 他のツールの場合でも、だいたいこいつに貼りこんでEPS出力出来るようにしとくのが無難)
製造サービス(相場を確かめてみると、意外と安い)
人脈に恵まれやすい環境
ニコ生のすごいところの一つに、リスナー側にも才能の塊みたいな人がゴロゴロしている点が挙げられる。 いわゆる「職人」と呼ばれるタイプの、手を動かす系の人たちだ。
動画の視聴者はかなり多いが、「職人」の濃度は極めて低い。
一方ニコ生は、母数が少ないわりに、その濃度が高めの感触がある。
彼ら「職人」は普通の生主に比べたら、あまり表に出ることはないし、 生放送をしている際も、特に人を多く集めているわけでもない。 しかし、彼らが生主の手を貸すと、生主のキャラクター性をはじめ、 パッケージ化におけるクオリティが急激に上昇する。
その現象のなかで、普通に数多く行われているものは、コミュニティのサムネイルだろう。 ある程度の規模のコミュニティになると、自然発生的にサムネイルが提供されていく。 また、「画像コンテスト」と呼ばれる、よくあるリスナー参加型企画においても、その様相は確認できることだろう。
アマチュアだからこそ、人間関係
要するに、生主は自分のリスナーの中から「職人」を募り、 協力してもらうことで、何かを作る際のクオリティの底上げがしやすい環境にある。
ただ、そこで一番難しいのは人間関係だろう。
関わる者が多くなるということは、作品のクオリティを上げることもあるだろうが、 それと同時に、意見が衝突するリスクも高くなるということだ。
一番多いのが、途中でやる気が無くなるという問題である。 よって、最初は工程が短く、単純なものからトライするのが良いだろう。
あと、生主の場合に特に懸念される問題は、 リスナーを無償で使える道具だと考えている人が多いのではないかということだ。 運良く「職人」が盲目的な信者リスナーであった場合は、まあ好きにすればいいと思うが、 それが当たり前という感覚は、トラブルの元となりがちなので注意が必要だろう。
僕のオススメは、少なくてもいいので一律に寸志を渡すことだ。 まあ、売上が明らかに立たないとか、払うと赤字になるなら無償でもいいと思うが。
まあでも最終的には「報告・連絡・相談」をマメにやることが大事だろうね。
業者でダメなのに自力で売れるわけがない?
「業者が失敗する中、素人がトライしてうまくいく可能性があるだろうか」
といった疑問はもっともだ。
たしかに、ニコ生周辺に関して言うと、出版業者が絡んだ形でのCDやDVDなどが、 過去何度かリリースされているが、売れ行きは芳しくないようだ。
それはそもそも企画自体に問題があったり、 あるいは業者が生主の人気の質を見誤っていたりするのがその要因である。 その業者は、その生主やリスナーのことなどを、果たしてどこまで理解しているのだろうか。
とはいっても、自分自身でも、それはまだ見えてないのかもしれない。 ただ結局、 手探りが必要ならば、個人の采配でもって活動する方がやりやすい はずだ。
そして、これまで見てきた中でもわかるように、 企業でないとできない部分というのはそこまで多くない 。 どうしても必要なのはDVDプレスなどの取次程度で、あとはちゃんと調べて実行すれば、作品を世に出すことは可能だ。 そうすることで、中間業者のコストを中抜きできれば、 もしかしたら現状で失敗している部数だったとしても、 採算がとれていた可能性もあった はずだ。
まとめ
長々と説明してきたが、結局のところ、自力でなんとかできそうな条件はすでに揃っていることがわかるだろう。 必ずしも大層な事務所等に所属することだけが道ではない、というかむしろ、 商業ラインに乗せないほうが良いケースの方が、なんだか目立つ気もする。 仮にプロとしてやっていきたいのだとしても、商業と自主・同人をうまく切り替えながら両立する作戦は有効だ。 古い慣習に囚われた契約に縛られるだけ、この業界で損だと思う。
ところで、初めに触れたゲーム実況の旅行DVDは、中身は知らないとはいえ、やり方としてアリなのであるが、 一方、某雑談生主によるタイ旅行DVDは、品質だけでなくやり口も非常に残念なものであった。
横山緑 暗黒放送SP 横山緑にみんな騙された! タイの秘境(卑怯)旅行で全暴露 {DVD}
安易に業者を頼り、編集も自分でやらず、音量調整も酷い。 作品で金をとる自信がないから、制作販売の責任を業者に預け、 自分は知らぬ存ぜぬで通す魂胆だったのだろう。
次の映像作品は、完全自主制作の自主流通を期待したいものである。
――愚痴っぽいけど、第4回は以上です。
次回はちょっとずれるけど、生主とは何かについて、改めて考えてみたいと思う。
めまい日記
もう当時以来読んでいないから、16、7年ぶりくらいだろうか、 思いつきで物置から『ママレード・ボーイ』を引っ張り出し、 熱風で焙りながらクリーニング、ベッドの脇にその8冊を積んだ。
まったん(という生主)曰く、「恋愛の教科書」とのことなのだが、 まあ確かにいろんなシチュエーションが組み込まれてはいるなぁとは思ったが、 やっぱりこの時代の少女漫画はセックス以前がテーマ対象だし、 これを教科書だと思ってたら、そうなっちゃうよなぁ、とも思った(根深いわぁ)。
まあそれはいいとして、文字通りの甘くて苦いマーマレードな記憶が引き出されてしまうせいだろうか、 ストーリーに逐一身悶えしながら、何度もクラクラとめまいを起こしてしまった。
なかでも最高にヤバかったのは、やはり最終巻のホテルの部屋の入口シーンであろう。 なにこの背徳感、どこの昼メロだよ、などと呟きながらも、またクラクラしてる。
いやなんかもう、面白くなっちゃって、しばらく眼前の風景が、回転するに任せていたんだけど、 嫌な予感がして、ちょっとぐぐってみたら、一応医者行ったほうが、よさそうな感じ……。
というわけで、三角関係描写だらけのアニメ版よりも、原作がオススメです。
ではまた。